『恍惚の人』
今さらながら、有吉佐和子のベストセラー小説「恍惚の人」を読みました。昭和47年の流行語にもなり、何度も映像化されている話題作。
姑の突然の死と同時に発覚した舅の痴呆(認知症)。何もしない夫や親戚への不満、いずれは自分にもやってくる老いに対する恐怖、幻覚・徘徊と進んでいく舅の症状、介護疲れ、仕事と介護の両立の難しさ、役に立たない行政・・・、ひとりであらゆることを抱えながら、舅を最期まで看取った嫁の苦悩や想いが、リアルに描かれており、その内容は、40年近く経った今読んでも、全く古さを感じさせず、また、重いテーマでありながら、とても読みやすいものでした。
重いテーマでも、落ち込まず読み進めるのは、問題とされる行動は続くものの、愛すべきキャラクターである舅のおかげかもしれません。
敬老会館に迎えに行った帰り、「ここへ来るのは嫌ですよ。年寄りばかりですからね。爺婆ばかりなんですからね」と愚痴をこぼす84歳の舅。また、時間や場所を考えず、冬空に輝く月や、綺麗な花に見とれて立ちつくす姿や、子供のように、「お腹が空きましたよぉ、何か食べさせて下さいよぉ」とぐずったり、時折見せる可愛い笑顔を見ているうちに、嫁の気持ちにも変化が表れます。
私達も、認知症の方の介護で、もちろん、大変なことは多々ありますが、逆に、住人さんに癒されることもよくあります。
ある時は、誰もいない昼間の居室で、クマのぬいぐるみに自分の服を着せ、寒くないように布団がかけてあるのを見ると、この方は優しいお母さんだったんだな、と、あったかい気持ちになり、また、ある時は、ズボンのベルトが見当たらなかったのか、自分の布団のシーツを上手に裂いてひも状にし、ベルト代りに結んでいる男性を見て、なるほど、昔はこうやって、あるもので代用していたんだな、と感心させられたり。
思わぬ返答に笑ってしまうこともあります。
「すいません、人を探してるんですけど・・・」と言われるので、「どんな方ですか?」と聞くと、「う〜ん、わりと年寄り」という返事。お年寄りが集う老人ホーム内で、これだけの情報をもとに特定の人を探すのは至難の業です。また、車イス上でうとうとされている方に、「横になりますか?それとも、テレビでも見ますか?」と聞くと、「ありがと。ええよ。私、今、夢見とるで」と言われたり。
家庭での介護とは異なり、大変なことは大勢で分け合い、その分、喜びも共有できる私達。日々の小さな喜びを集めて糧にし、今日も、頑張って行こうと思います。
|