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コラム

       『俺たちは奇跡を・・・』
 
 
 「俺たちは奇跡を起こすんだ」
 座敷の周辺がしんと静まり返った。
 「駄目な少年は駄目なんだろ。あんたたちはそう言った。絶対に更生しないってな。地球の自転が止まることがあっても、温暖化が奇跡的に止まっても、癌の特効薬ができることがあっても、スティーブン・セガールが悪役に負けることがあっても、非行少年が更生することはない。そう断言した」
「そこまでは言ってないだろ」中年男が怒った。実際、そこまでは言ってなかったな、と僕も思ったが、陣内さんは聞いていない。
「それを俺たちはやってみせるんだよ」満足感を浮かべて、笑う。「俺たちは奇跡をやってみせるってわけだ。ところで、あんたたちの仕事では、奇跡は起こせるのか?」

 『フィッシュストーリー』、『重力ピエロ』など、著作が次々と映画化されている人気作家伊坂幸太郎氏の『チルドレン』の中のワンシーン。家裁調査官の主人公が、居酒屋で会社員の中年男性にからまれたときに言う胸のすくような台詞です。

 何故介護の仕事をしているのか?と聞かれた時、「やりがいがあるから」と答えていましたが、この本を読んで以来、答え方を変えました。司法福祉と高齢者福祉、分野は違いますが共通する面はあります。福祉の仕事の楽しさは、奇跡を起こせることにあるのではないでしょうか。

 何もしゃべらなかった方が歌をうたうようになった。寝たきりの方が立ち上がった。チューブで栄養を摂っていた方が口から食べられるようになった。それを「奇跡」と呼ぶのが適切かどうかわかりませんが、援助する側の喜びは、単なる「やりがい」という言葉では片付けられないほど大きいものです。

 もちろん、奇跡を起こすのは私たちではなく、住人さんたちです。私たちはお手伝いをする側なので、「奇跡を手伝えるから」「奇跡を見ることができるから」ということになるでしょうか。

 介護の仕事って、きついし汚いし給料安いし、大変だね、がんばってね、と言われることがあります。心の中で(あんたたちの仕事では奇跡は起こせるのか?)とつぶやきながら、「そんなことないですよ。僕たちは奇跡を手伝うことができるんです」と答えます。


                         
                                                        (広報『和進』より抜粋)


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