『ビートルズ』
キーキーキー!!!。きょうもAさんは自慢のシルバーカーを押してデイルームの中を颯爽と歩いてきます。若い頃、営業マンとして全国を行脚して鍛え抜いた自慢の健脚は今でも健在。月に一度の平田豊生苑で開かれる宴会が楽しみと話す紳士です。
そんなある日のこと、Aさんが新聞の日曜版に掲載されていた「ビートルズ全集」のCDの広告チラシを切り取っている場面に遭遇しました。時々、気になる記事があると切り取っていたAさんですが、きょうはいつもとは様子が違います。
「Aさん どうしたの?」と尋ねると、「いゃ〜なんでもないわ〜」との答え。そして、その日の夕食の時、Aさんは午前中に切り取った「ビートルズ全集」のチラシを取り出し、再び見入っていました。
「Aさん ビートルズが気になるの?」「いゃ〜若い頃によ〜歌が好きでなぁ〜。ビートルズも名前だけは知っとる。いっぺん 聞いてみたいとおもってなぁ〜。」愛飲のマイルドセブンをふかしながら恥ずかしそうに話すAさん。
そこで、「私の家にビートルズのCDが有るからよかったら一度聞いてみる?」
と提案してみました。「悪いなぁ〜、頼んでいいかな〜」
翌日、早速ビートルズのCDをカセットテープにダビングしてAさんの居室を訪ねました。カセットテープをAさんのラジカセにセットしてボタンを押すとスピーカーからビートルズサウンドが流れ出しました。ポップス系の音楽の後にジョン・レノンが歌う「イマジン」という局が流れると、Aさんの眼に涙が・・・
どうやら若い頃に社交ダンスをしていた頃の思い出の曲のようです。人と音楽。人はそれぞれの人生を自らが主人公として生きていきます。その中で、喜び・悲しみ・怒り・楽しみを繰り返しながら、そして多くの経験を重ねる中で多くの思い出を作っていきます。Aさんにとって一曲の音楽の中に多くの思いがあったのだと思います。
ともすれば、高齢者施設のレクリエーションでは童謡や演歌に偏り勝ちですが、それ以外の曲にも大切な思い出をもつお年寄りも多いと思います。そんな、お年寄りたちの人生の機微を理解し、そっと寄り添ってあげられるケアワーカーでありたいと思うこのごろです。
(広報『和進』より抜粋)
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